無事に海上勤務を終えて下船した時の 達成感・満足感は言葉では表現できない。

金丸 博

船長 / 安全管理グループ 品質管理チームリーダー
2011年入社(キャリア採用) / 商船学部航海学科卒業
(2022年取材当時)

どうして船乗りになったのか

私の両親は小・中学校の教員をしており、またご近所、親戚等身近なところに船乗りはいなかったので、船員という職業を知らずに幼少期を過ごしました。しかし、中学生の時に帆船日本丸が故郷宮崎の港祭りに招待され一般公開されていたのを見学に行った際、船と船長・航海士の制服の姿に率直に「かっこいい!」と感激したのをきっかけに船員という仕事を知りました。その後、高校時代に自分の将来の希望を船員として東京商船大学に進学し、外国航路の航海士を目指しましたが、大学に入学し、寮生活や勉強、実習を経験していく中で、航海士になるからには船長を目指そう!と、憧れでは無く、将来像としての「船長」を強く意識しました。

船長や陸上での業務

船長としての海上勤務を経て、現在は当社船舶と乗組員の安全な運航業務をサポートする安全管理グループにて安全・品質管理チームリーダーとして陸上勤務をしています。安全・品質管理チームにおける業務は、当社船舶の状態や乗組員の技量が、国際法規や当社の規則、荷主・用船者等お客様の要求に順守しているかの確認(内部監査)を軸に、不具合が見つかった場合の対応や必要となる会社規則の改訂を行っています。また、各種船舶検査の手配・実施、及び社内の各種会議の事務局業務等も当チームにて行っています。船舶運航に関係する規則はとても多岐に渡り、また頻繁に変わっていくため、関連情報を取りこぼさない様、常にアンテナを広げ、年々厳しくなる国際規則やお客様の要求に添うよう日々努めています。また、海上勤務に於ける船長の業務というものは、あまり知られていないのですが、現在の外国航路の船長の仕事は多岐に渡り、毎日とても忙しく過ごしています。船長と言えば、一昔二昔前は、何にも船長(せんちょう)と表現されるくらい仕事をしていない(様に見える)職種として周囲に見られていたようですが、必要最低限の乗組員で構成され運航されている現在の船では、そうはいきません。まず操船では、船舶の航行が多い水道等の危険な海域を通過する時や港に入るときは,船長が船橋に立ち,安全に航海出来る様に指示を出しています。また、大洋航海中であっても、会社や船舶代理店等の関係先に提出する様々な書類作成等の事務作業に追われます。また,外国人乗組員に支払う給料や、食料を購入するときの現金の管理等も船長の仕事になっていますし、その他船内で起こる雑事に都度対応するのが現在の船長の業務です。

船員になってよかったことは...

挙げればきりがないですが幾つか挙げさせて頂きます。

  1. あまり観光客が行かない様な世界中の珍しい場所に行けること。
  2. 時化の時等は荒々しい大海の恐怖に直面しますが、満員電車に乗って通勤しなくても、徒歩1分の職場で大海原という大自然をダイレクトに感じ、刻々と変わる美しい海や空の風景を見ながら生活出来ること。
  3. 運んできた石炭や鉄鉱石等の積荷を揚げきった時は、この資源が世の中の人々の為になるんだという大きなやりがいを感じます。
  4. 全長300m以上の巨大な船の操船は醍醐味があり、また、現場で培った経験を生かして抱えていた案件が無事に解決した時は、プロフェッショナルとしての誇りを感じます。
  5. 無事に海上勤務を終えて下船した時の達成感・満足感は言葉では表現できないほどです。
  6. もちろんその人次第ではありますが、金銭面で生活に困ることは無く、相対評価ではありますが給与が高く良い生活が出来ること。
  7. まとまった陸上休暇を利用して、好きな趣味に打ち込むことが出来ます。私も渓流釣りや鮎釣り、沢登り等の歴は、もう25年以上の域となり、少々腕に自信ありの名(迷)手です。
  8. 航海士としての階級が上がるに従い、肩章や袖章の金線が一本ずつ増えて行くのは、仕事に於ける自己の成長を可視化している様で誇らしいと感じます。特に私は、航海士や船長の見た目のカッコよさに憧れて船員になりましたので、船長になり、袖に4本線が入った時は、「ようやくここまで来たな」という安堵感や嬉しさを感じると共に、これから始まる船長業務を想像し、一段と気持ちを引き締めたことを思い出します。
  9. 世間の皆様から一目置かれている様に感じることもあり、過去には故郷の出身中学校から船員の仕事に関する講演依頼もありました。子供達にとっても外国航路の航海士・船長は憧れの存在となり得るかもしれません。

理想のキャプテン像、船長のリーダーシップ

船長には、責任を持って船を運航し、その中でリーダーシップを発揮し船や乗組員を安全に導くという大きな任務があります。リーダーシップと言っても、元々その素質を持っている人は決して多くはないと思います。もちろん私自身も実に凡人で、その素質が無い事には早い時期に気付いていたので、それならば自分の目指すリーダー像に向けて努力するしかないと思い、目指すべき姿と自身とを比較しながら船長業務を行ってきた結果か、幸いに私が船長として指揮していた船に於いては、大きな事故や怪我等もありませんでした。全ての乗組員を、乗船してきた時と同じ心身ともに健康な姿で待っている家族のもとに無事にお返しするのも、船長の大事な仕事です。また、仕事と生活の場所が一緒であるという特殊な環境であると共に、大海原という時には厳しい大自然の真っ只中にあっても、乗組員には、絶対的な安心感を持って頂くというのが、船長の使命だと思っています。職場環境の特殊性を考慮すると、逃げる所の無い閉鎖空間とも言える船上でのコミュニケーションは、とても重要です。私はお酒が全く飲めないので、いわゆる飲みニケーションでは無く、普段の船上生活に於いてコミュニケーションを取るように心がけて来ました。長い期間、生活するのも仕事をするのも一緒となる船上生活で、話せばこそ理解できる事も多々あるものです。また、業務の方針については、必ずしも私の考えがすんなりと受け入れられる雰囲気に無い場合もありましたが、そこは納得いかないまでも少なくとも理解はして頂くことを心掛けて来ました。

当社のいいところや強み

全体の社員数がそれほど多くなく、入社してある程度年数が経過すると、面識の無い社員がほぼ居なくなり、個人のキャラクターも判りますので、それが仕事のし易さに繋がります。海技者を陸上の様々な部署に配置し、その部署で必要となる知識を学びながら、海技だけでは無い海運に関する知識を幅広く得る事が出来ます。海上勤務に関しては、世界最大級40万トンバルカーからケープサイズ、ハンディサイズバルカー、LPGタンカー等の乗船が可能で、決まった航路では無く、世界中どこにでも行く可能性があり、昔ながらの船乗り気分を味わえます。また船上教育だけでなく、陸上に於いても各種教育に力を入れているので、無理なく技術を身に着けることが出来、経験に応じて適正にプロモートが行われます。

これから海技者を目指す方へ

航海士に関して言えば、三等航海士として独り立ちしたら、航海当直を受け持つことになり、乗組員の命、船と荷物の合計で相当な財産の運航指揮が任されます。国家試験をパスした海技者とは言え、高専や大学を卒業したばかりの若人に会社と船長はその重責を託すのですから、いかに信頼されているかを肌で感じるはずです。また、そのことがやりがいやモチベーションにも繋がると思いますが、一方でプレッシャーにも感じるかもしれません。ですので、先ずはそのプレッシャーに耐えうるだけの心身の健康が大切です。航海士だけでなく機関士にも共通する事ですが、生活も兼ねた働く環境が陸から遠く離れた洋上であるという特殊な環境下では、そこを十分に配慮しなければ命取りとなります。嫌な事があった時の気持ちの紛らわし方や、船上で出来る健康の維持・増進の為の趣味等を持っておくと良いと思います。
また、海上・陸上双方の勤務に共通する事ですが、「何故そうなるのか?」を常に考える癖をつけておくことをお勧めします。船舶運航の世界には様々な決まりがあります。規則でそうなっているから従うというスタンスでは無く、何故そう決まっているのかを自身の頭で考え、物事の本質を理解できる海技者になって頂きたいと思います。そこが判るようになると、その後の業務で困難にぶつかっても、大きな失敗には繋がらないと思っています。

そして、当社の海上職に興味をお持ちの方は、今までの人生の多くを日本で育ってきた方が比較的多いと思いますが、昨今よく日本の学校・企業では、グローバルな人材であれと声高に叫び、語学教育や留学体験等を重視する傾向が見られます。しかし、その人に日本人ならば日本人としてのアイデンティティがしっかりと確立されていなければ、本当の意味でグローバルな人材には到底なれないと思っています。これから、世界各国の人と仕事をする機会があると思いますが、その中で、度々日本の事を聞かれると思います。その際、自国の事を知らないが為に、恥ずかしい思いをすることがあるかもしれません。一例として、外国人から日本の国民の休日に、何故今日が休日なのかと聞かれた際、その日が休日になったいきさつや歴史を即座に返答出来る人はそう多くないと思います。外国人から見たら、そういう事も知らないのかと驚かれるでしょうし、自国の事もろくに知らない日本人に敬意を払うとは思えません。「建国記念日」に当たるアメリカの独立記念日や、フランスの革命記念日は、その国の国民であれば子供でも理解していると思いますが、例えば「建国記念の日」が、何故2月11日となっているのか説明できる方はあまりいないのではないでしょうか。国の文化・歴史を恥ずかしくない程度には勉強し、その国の国民としてのアイデンティティをしっかりと確立しなければ、グローバルな人間・人材を目指して勉強をしても、砂上の楼閣になってしまいます。今後はそのことも考慮し、形の上でも、気持ちの上でも、一人の国際人として七つの海に漕ぎ出してほしいと思います。

また、仕事関係だけでなく、世の中の色々な事に興味を持ち、知見を広めていく事をお勧めします。たかが雑学されど雑学です。船員は、一つの事を極める学者タイプの仕事では無く、不具合等には様々な角度からアプローチし、目の前に立ちはだかる問題を次々に解決していく仕事で、その為には、物事を浅くても良いから広く知っておくことが必要です。ある意味何でも屋でもある船員稼業は、いつ何時、どんな知識が役に立つかは判らないものです。たとえ業務に役に立たない、毒にも薬にもならぬような知識や雑学であっても、長い船上生活に於いて話題を多く提供出来れば、本船での人気者になり楽しい海上勤務を送れることと思います。

また業務に関し、自分はこうしたい、ああしたいという希望があれば、上長にその旨お話しして頂きたいと思っています。海上に於いても陸上に於いても、我々はチームで仕事をしています。上長は出来るだけ多くの意見を考慮し最善の道を選択したいと考えているもので、部下がどの様に考えているかは、特に気になる事項です。歳を取ると、それまでの経験があるが故に時に盲目にもなりますので、是非、積極的に意見を話してほしいと思います。
海や船という現場がある我々の仕事は、ごまかしが効かず習熟するのに時間が掛かります。「継続は力なり」と言いますが、船員は本当にそういう職業だと感じています。若いうちに経験してきた様々な失敗や不具合等から学んだ事が、その後の業務で役に立つ場面が必ずありますので、何事にも前向きにしっかり取り組んでいくと良いと思います。海技者は昔と比べると、トータルで見て海上勤務より陸上勤務期間の方が長くなっている実情がありますが、現場の仕事を覚える事は、海技者として基本中の基本なので貴重な海上勤務の期間に、なるべくいろいろな業務を経験することが重要です。これも出来た、あれも出来たという成功体験を得ながら自信をつけて行き、海技者として自己を成長させて頂きたいと考えています。海技者の道に近道はありません。海の上であっても地道に行かなければ成就しないのが船員の道だと思っています。

大海原を舞台にしたスケールの大きな仕事がしてみたい!世界中を仕事として旅してみたい!自然や海や船が好きだ!一般的な仕事とは少し違う事をしてみたい!そして世界で最も大きなバルカーをその手で操船してみたい!と思っている方、加えて金線を巻いた士官の船員服に身を包みたい!と思っている方も、是非当社の門を叩いてみてもらえればと思います。誰のものでもない、自分自身で選んだ貴方の船乗り人生であるのなら、責任をもって最高のものにしてほしいと思います。NSブルーに掲げられたUの世界には、その為の舞台がしっかりと整えられており、必ずや皆様の夢や希望を叶えてくれることでしょう。

HISTORY

  • 1995年 商船学部航海学科卒業
  • 1995年~ 三等航海士
  • 1997年~ 二等航海士
  • 2001年~ 一等航海士
  • 2011年 当社入社(一等航海士・陸上勤務)
  • 2015年5月~ 船長(海上勤務)
  • 2018年1月~ 安全管理グループ 海務チームリーダー(陸上勤務)
  • 2020年11月~ 安全管理グループ 安全・品質管理チームリーダー

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